澤田 清蔵
2006年09月28日
明治生まれの私の祖父、澤田清蔵が雪深い富山から
京都の友禅工場へ奉公に上がったのは14歳の時でした。
大人に混じり、友禅台に届かぬ身に高下駄を履いて、
型を運んだり、洗ったりの仕事は少年にとって
とてもきつい仕事だったそうです。
明治生まれの私の祖父、澤田清蔵が雪深い富山から
京都の友禅工場へ奉公に上がったのは14歳の時でした。
大人に混じり、友禅台に届かぬ身に高下駄を履いて、
型を運んだり、洗ったりの仕事は少年にとって
とてもきつい仕事だったそうです。
お金の苦労を味わってきた祖父は、
このまま職人をしていても駄目だ、商売をしようと
同郷の人たちに手伝ってもらい、大正3年に澤田産業という
会社を設立したのが、染裂 澤田の始まりです。
商売の鬼とまで言われた祖父ですが、私の記憶の中では、
塩昆布を炊くのが得意で、囲碁がめっぽう強く、
酔うと人前でも大声で、同じ歌を何度も何度も歌って
迷惑がられていた姿しか目に浮かびません。
今にして思えば、三人兄弟の中で私を一番かわいがってくれた祖父。
その面影が、私の商売へのこだわりなのかもしれません。
人が身に付ける繊維として優れた特性(排毒作用)を持つ
正絹を使い、丹後ちりめんの技法で織り上げました。
横糸の1%に特殊な糸を使い、伝統の技術と熟練の手作業で
作られております。
その特徴は、着物のおめしの様な強い糸のよりを利用し、
縦糸、下糸、横糸で三重構造にし、空気の層を作り出しました。
見た目のボリュ-ウム感を裏切る、驚くほどの軽さが
特徴です。
上質な絹の肌触り、一度身に付ければ手放せない程の暖かさと、
まるで空気を纏っているかの様な軽さを一度味わってみて下さい。
暖簾とは、あきんどの魂です。
武士にとっての刀と同じく、商う心の象徴。
願い(念)を込めてこそ、ただの布切れが暖簾としての
力を発揮するのだと私は思います。
悪しき縁を止め、善き縁(お客様)を招き入れる結界としての
役目をを果たすべく
あなたの店前を風雨に耐え守り抜きます
暖簾とは、結界。
ひとたび暖簾をくぐればそこは、もてなす側の領域。
思いのままに演出ができ、力を発揮することでしょう。
しかし、暖簾という結界が無ければ、外と内との
けじめが無くなり、力が弱まるのではないでしょうか。
暖簾は、商家にとり信用の象徴です。
● 暖簾を守る
● 暖簾を誇る
● 暖簾を分ける
● 暖簾を汚す
● 暖簾を下ろす
暖簾は、商家衰退の代名詞
暖簾の始まりは?
平安時代
源氏物語に、暖簾と同じ機能を持つ几帳が登場します。
しかし、暖簾という言葉は無く、帳(とばり)垂布(たれぬの)
虫垂衣(たれむし)などと、呼ばれていました。
もともと、日除け、風除け、塵除け、目隠しが目的でした。
鎌倉時代
この頃から商家の目印として文様を入れるようになりました。
江戸時代
庶民の識字能力が、寺子屋の登場により向上し、
文字を染め抜くようになり、重要な広告手段となりました。
暖簾には、いろいろな種類があります。
店前暖簾(みせさきのれん)
・標準暖簾(鯨三尺 1、13m)
・長暖簾
・半暖簾
・水引暖簾(布丈35㎝~40㎝の短いものを間口いっぱいに)
・日除け暖簾
・太鼓暖簾(風をはらんでバンバン鳴る)
・水屋暖簾
座敷暖簾
花嫁暖簾
楽屋暖簾
暖簾の印染め(しるしぞめ)。
●堰き出し(せきだし)
生地白の上に、屋号や紋を染めます。
屋号や紋の部分以外の生地白を全て糊で伏せ、
刷毛で塗ったり染料に浸して染めます。
●抜き(ぬき)
屋号や紋を糊で伏せ(防線)て、地色を染めます。
◎この後、色止めをします。
染料の種類によって色止め(定着)の仕方が違います。
薬品で反応させたり、蒸しと言って蒸気の高温で
色の粒子を繊維に定着させます。
◎洗います。
防線糊を洗い流し、整理(湯のし等)をして暖簾に仕立てます。
布に色を染めるという事は、結構大変な事なのです。
布に色を付けるのは簡単ですが、人が通るこすれ、
洗濯によるこすれ、雨の雫、そして日光による色あせ。
暖簾には、いろんな難事が待ち受けております。
これらに少しでも多く耐えうる染めをして、色が染まったと
言えます。
色の分子を、繊維に食らいつかせる為に反応させたり、
力を掛けたりした上に、思った色に仕上げていく事は、
長い経験と神仏の加護、そして多少の色の違いを
許して下さるお客様の暖かい心が、染色業を営む者を
支えて下さっているのだと思います。
染め物に限りませんが、ものをつくるということは、
そこに意思が働きます。
実際に刷毛を持って染めている人、
手を動かしている人はもちろんですが、
“こんなものを作ろう”
“こういう染めとこんな加工をして仕上げてみよう”
と思い願う気持ちが意思であり念です。
それは、作り手だけではなく購入された方が、
気に入って大切に思う気持ちも、
また、念となりそこにこもります。
紋や意匠も、本来は単なるデザインでは無く、
形の無い思いや願いを表現したものです。
たとえば、そろばん玉は、商売繁盛
豆絞りは、子孫繁栄などたくさんあります。
そのデザインを染め上げ、念を込めます。
だから伝わるのです。
このように、目に見えないゆえに明解に説明できない事柄は、
人の能力によってしか残せないものではないでしょうか。
ものづくりは、ものではなく意思であることを
私は強く感じます。
念と聞けば、念力、念仏、怨念など
抹香臭く、おどろおどろしい感じがします。
しかし、字を分解してみますと、今の心です。
あなたの今の心。
心の中にしまっている大切なもののことです。
それを、布に表現してみませんか。
そのお手伝いをさせていただきます。